大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1941号 判決

控訴人 尹鳳翰

被控訴人 国

訴訟代理人 渡辺等 吉田克己 ほか一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する本訴請求は、原判決が認容した限度において正当としてこれを認容すべきものと判断するが、その理由は、以下に補充するほかは、原判決がその理由として説示するところと同一であるから、これを引用する。当審における新たな証拠調べの結果によつても、右判断を左右するに足りない。

原判決一四丁裏一一行目以下に次のとおり加える。

控訴人は、本件建物中他の部分を倒壊させることなく、本件(2)の建物部分を収去することは、物理的に不可能であり、しかも被控訴人には本件土地の明渡しを求めなければならない特段の事情はない等の事実からすれば、被控訴人の本訴請求は権利の濫用として許されない旨主張する。

しかしながら、現在の進歩した建築技術の下において、控訴人主張のように右建物の一部収去が不可能であると断ずることはできないばかりでなく、そもそも本件(2)の建物部分をいかにして収去するかは、窮極的には、強制執行の段階において、代替執行の申立てがあつた場合における第一審受訴裁判所の授権決定及びそれに基づいてする代替的作為の具体的実施方法にかかわる問題であり、接続残存部分をできる限り保持しつつ建物の一部のみを除去するという事実上の行為が困難なものと予想されるからといつて、不法占有地の明渡し及びその前提となる当該土地上に存する建物部分の収去を求める請求が許されないとする理由はない。そして、実体法上右建物の一部収去及び土地明渡しの義務がある以上、仮にその履行に伴つて不可避的に、建物の残存部分につき何らかの修理等を加えることを余儀なくされ、又はその部分の利用価値が減少する等の結果が生ずるとしても、その不利益は執行債務者たる控訴人において甘受すべきものと考えざるを得ない。

また、当審における控訴人本人尋問の結果によれば、過去において、被控訴人との間に本件土地の払下げに関する話の出たことがあり、付近の国有地について払下げが行われている事実を認めることができるが、他方、右証拠によれば、本件土地は近く公園として利用される予定であつて、控訴人においても、これを了知しており、その際には、本件土地を明け渡さなければならないと考えている事実を認めることができる。

以上の点からしても、被控訴人の本訴請求が権利の濫用であるとする控訴人の主張は、到底採用し難い。

よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき同法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本元夫 貞家克己 長久保武)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例